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Z390 m-ATXマザボのPCIe

マザーボードのPCIe構成

現在、Z390搭載のMicro-ATXマザーボードでCoffee-Lakeマシンを自作しようとすると6種類の選択肢しかありません。人気の無いフォームファクタなのでしょうか、寂しい限りです。そのうちASUSとMSIからは2モデルが出ています。(リンク先はAmazonのページです)

この2社の2モデルのうち、高額な方のモデルは、他のMicro-ATXマザーボードとPCIeスロットの構成が違うことがわかります。以下は4本あるPCIeスロット部分の写真です。写真の上の方にCPUがあります。

長いスロットがPCIe x16と呼ばれるもので短い方がx1です。CPUから近い方からぞれぞれ、

のように並んでいます。16と1が交互に並んでいる方が高級マザーボード、16が両端にあるのがそれ以外の一般的なマザーボード(H370/B360などもこちら)です。macOSをインストールする場合は、どちらの構成が有利なのかを考えてみました。

レーン数

ところで、PCIe x16とかPCIe x1と表記するときの数字の部分は、PCIeのレーン数です。PCIeは、超高速(PCIe 3.0では2Gb/s程度)のシリアル転送を行なっています。このシリアル転送の配線を何組用意しているかがレーン数になります。1レーンは1組、16レーンは16組のシリアル転送配線セットを持っていることになります。1レーンあれば2Gb/sの、16レーンあれば32Gb/sのデータ転送ができます。1レーンのデータ転送では、送信受信にそれぞれ1対の差動配線を用いるので、1レーン当たり合計で4本の信号線を使用します。実際にはそれぞれにノイズ低減のための接地線が用意されるので、レーンが1増えるごとに、スロットのピン数は8個増え、だんだんと長くなります


(上からx4, x16, x1, x16のPCIeスロット。一番下は古い規格のPCIスロット。Wikipediaより)

スロットの物理的な長さと、実施されるデータ転送の速度は必ずしも一致しません。長い16レーン用のスロットが用意されていても、全部が配線されているとは限りません。あとで紹介するように4レーンしか配線されていないこともあります。また、長いPCIeスロットに短いPCIeカードを挿すことも可能ですが、その場合は、接続された接点だけで通信します。例えば16レーンの長いスロットに4レーンの短いカードを挿すと、4レーンで接続されます。

CPUとチップセット

Coffee Lake CPUとZ390チップセットのブロック図がIntel社のサイトで公開されています。引用します。ここで上の箱がCPUで下の箱がチップセットです。

PCIeスロットには、CPUに直結しているものと、CPUからはDMI 3.0を経由してチップセットの先に接続されたものの2種類があることがわかります。図で言うと、左上にある16レーンのPCIeがCPU直結、チップセットの左にある24レーンのPCIeがチップセット経由です。最近のIntelのメインストリームCPUはZ170の時代からほぼこれと同じ構成です。CPU直結のPCIeはフルスピードが出ます。16レーンなので32Gb/sくらいの速度が出ます。一方でチップセット経由のPCIeは合計24レーン使えますが、8Gb/sのDMI 3.0がボトルネックになっていて、合計で8Gb/sしか速度が出ません。8Gb/sというのはPCIe 3.0のレーン数にすると4レーンです。

高級と一般マザボのスロットの違い

最初に、高級なマザボと一般のマザボでPCIeスロットの並びが違うことを示しました。並びが違うだけではなく、接続先も違うのです。つまり、上記で示した2種類のPCIe構成において、以下の青い太字のスロットがCPU直結のPCIeで、それ以外の細字のスロットがチップセットのPCIeです。

高級マザーボードでは、CPU直結のPCIeが2本あります。というのはZシリーズのチップセットでは、CPU直結のPCIeを分割する機能があるからです。この機能は、CPU直結の16レーンを、

の3通りに分割することができます。ブロック図の左上に書いてあります。フルサイズのATXマザボでは8+4+4の3本に分割することもありますが、スロットが4本しかないm-ATXでは8+8の2本に分割されます。また、この分割は、PCIeカードが挿された時に自動的に実施されます。つまり、

の構成のマザボは、CPU直結の両方のスロットにカードを挿すと、8 + 8に分割されるのです。以下は、ASUS TUF Z390M-PRO GAMINGのマニュアルからの抜粋です。CPUに近い方のx16レーンスロットPCIEX16_1と、遠い方のx16レーンスロットPCIE16_2にカードが挿された場合に、何レーンで接続されるかが表に書いてあります。これを見ると、CPUに近い方のx16レーンスロットにのみカードを挿すと16レーンで接続されて、一方のx16レーンスロットにもカードを挿すとそれぞれが8レーンに分割され接続されると書いてあります。

一方で、

の構成のマザボでは、CPUに近いx16レーンのスロットのみが、CPUに直結しています。CPUから遠い方のx16レーンスロットはチップセット経由です。この構成では、CPU直結レーンが分割されることはありません。以下は、ASUS PRIME Z390M-PLUSのマニュアルからの抜粋です。PCIEX16_2にカードを挿しても、PCIEX16_1の速度が変化しないことがわかります。

これを見ると、合計レーン数が多いので、この構成の方が優れているように思うかもしれません。しかし、PCIE16_2のレーンはチップセットが管理していて、他のPCIe, M.2, SATA, USB, LANなどと一緒にDMI 3.0の8Gb/s帯域を共有しています。それもあってPCIE16_2のレーンは4レーンしかないのです。4レーンは8Gb/s相当なので、これ以上のレーンがあってもデータ転送速度に対応できないためです。

PCIeに複数のグラフィックスカードを接続して、グラフィックスや並列計算を高速化する手法があります。グラフィックスの場合、NVIDIAではSLI, AMDではCrossFireと呼ばれている機能で、複数のグラフィックスカードを接続して、ゲームなどの画面描画を高速にすることができます。グラフィックスカードには通常16レーンのコネクタが付いていますので、本来なら16レーンずつのPCIeスロットに挿したいところです。しかしCPU直結が全部で16レーンしか無いので、半分に分けて接続します。

の構成のPCIeは、2本のx16スロットが、8レーンになってしまいますが、どちらも高速なCPU直結にな理、SLI/CrossFireに適しています。なのでグラフィックスカードを2枚使用する場合は、こちらの構成の高級マザーボードを買うべきです。ちなみに

の構成のマザーボードでもSLI/CrossFire対応している製品が多数あります。

macOSはSLI/CFできない

多くのマザーボードが対応しているSLI/CrossFire機能ですが、これはWindowsかLinuxでしか使用できないです。それも対応したアプリケーションからのみ利用可能です。macOSでは、円筒型Mac ProでAMDのGPUを2個使ったデュアルGPUを構成していますが、CrossFireとは違う使い方をしています。なのでmacOSを使う限り、m-ATX, ATXマザーボードにグラフィックスカードを2枚挿しするメリットはほとんどありません。グラフィックスカードを1枚しか使用しない場合、

の構成のPCIeのメリットはほとんどありません。逆に、こんなデメリットも考えられます。

グラフィックスカードを1枚使用する場合、CPU直結のPCIeを利用するために、CPUに一番近い16レーンスロットに挿すことになります。そうすればグラフィックスカードの16レーンが全てCPU直結になり、最高の性能が期待できます。この時、直結PCIeを分割する機能がある

の構成のマザーボードで、2番目の16レーンスロットを使用しようとすると、1番目のスロットの帯域が半減して8レーンになってしまいます。グラフィックスカード以外のカードを挿しても分割機能が働いて帯域が半減します。なので直結16レーンの性能をフルに活かしたいなら、2番目の16レーンスロットは使用しないほうが良いです。一方で、

のマザーボードなら、残りのどのスロットを利用してもGPUの帯域は低下しません。フルバージョンのATXマザーボードならスロットは多数ありますので、分割しないスロットを選んで使用すれば良いです。しかし、4本しかスロットの無いm-ATXでは、残りの3本のうちの1本が使えないのは辛いです。さらに、最近のグラフィックスカードは2スロット占有するので、グラフィックスカードの搭載比率が高いHackintoshでは、空きスロットが1本になってしまいます。これにWiFi/Bluetoothカードを挿したらもう空きはありません。ということでmacOSを使うなら

の構成のマザーボードが良いと思います。これなら2本占有グラフィックスカード、WiFi/Bluetoothカードを挿しても、まだ1本の空きがあります。グラフィックスカードを2枚挿しする以外に、8レーンのPCIeを2スロット必要とする用途は今の所まず無いと思います。NVMe SSDカードでも8レーンの速度が必要な製品は無いです。ということで、macOS用にZ390 Micro-ATXマザーボードを選ぶなら、以下から選ぶのが良いと思います。


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