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HDD/SSDの読み書き
HDDやSSDは、大容量のデータを低価格で管理するために、一定のかたまり単位でデータの読み書きを提供しています。このかたまりは、HDDではセクターと呼ばれ、SSDではページと呼んでいます。HDDにはセクターサイズが512バイトと4kBのものがあり、SSDのページは一般的には2kBです。これを、以下ではページと統一して呼ぶことにします。
新しいファイルは、新しいページから書き始めます。ページを使い切らなくても、そのページは全部そのファイルのものです。例えば以下のようにすると、Aという文字が書かれたファイルができます。ダンプしてみると文字と改行コードの2バイトの大きさのファイルだということがわかります。
echo A > tako hexdump tako
このように小さなファイルでも、HDD/SSD上では1ページを使用します。(実際のHFS+では複数ページをまとめた4kBのサイズが最小単位です)
1ページに収まらないファイルは、複数ページに書き込まれます。どのファイルがどのページに書かれて、続きはどのページなのかを管理するのがファイルシステムです。その情報(目次に相当する情報)は特別なページに書いて管理しています。ページの情報が不要になっても、ページの内容をわざわざ消すことはしません。不要になったページ番号を、目次から削除するだけです。
SSDのデータ書込手順
HDDは、円板に塗布した磁性体に微小な磁石を多数作成して、これの磁極を変更してビットを記録します。磁極は磁場を加えると反転するので、上書きが容易です。例えば、ページにAという情報を書き込んだ後からBを書くと、それだけでAがBに書き変わってくれます。
一方SSDは、絶縁された微小な領域に電子を閉じ込める事でビットを記録します。電子を加えるのは比較的に簡単なのですが、取り除くのは手間がかかります。例えると、紙にインクで文字を書くようなものです。とあるページにインクで書かれているAの代わりに、新たにBを書くためには、手間をかけてAの文字を消さないといけません。漂白剤でまっさらな紙に戻してから書き込む必要があります。その上、SSDではページ単位での消去はできません。標準的なSSDでは64ページをまとめてブロックと呼んでいて、消去できるのはこのブロック単位です。いわば、64ページのノートブックになっていて、冊子ごと漂白剤に突っ込んでインクを消さないといけない状況です。
なのでOSから、例えばとある冊子(ブロック)の10ページ目に新たな情報を書き込んでくれと依頼されたSSDコントローラは、次のような作業をします。10ページ目以外の他のページに情報が書かれていたら、その内容を作業用メモリにバックアップします。次に、この冊子全体を漂白します。最後に、バックアップした情報を書き戻し、10ページ目に依頼された情報を書き込みます。かなり面倒な処理です。一方で、これが初めて使う冊子なら、バックアップは不要です。ですからSSDの書き込み速度は色々な要素で変動しますし、一般的にはSSDを使い込んでいくと書き込み速度が低下していきます。
TRIMの役割
SSDの書き込み速度を低下させる原因の一つが、HDDのことしか考えないで設計されたOSです。先に述べたように、OSは不要になったページをいちいち消去することはせず、目次から削除するだけです。ですが、目次がどのページに書かれているかとか、目次のデータ構造がどう決められているかは、HDD/SSDのコントローラにはわかりません。もしOSが、不要になったページ番号だけでもSSDコントローラに教えてくれれば、そのページを無駄にバックアップしたり、書き戻さないですむでしょう。SSDのメモリー素子は書き込むごとに疲弊して、故障の原因になると言われています。なので、不要な書き戻しは避けたいところです。また、一回のブロック消去で真っさらなページを多く用意できれば、次回の書き込みが高速になると期待できます。
このように、使用しなくなったページをSSDコントローラに知らせる機能がTRIMです。TRIMはSSDのために追加された拡張機能です。不要になった葉っぱ(ページ)を刈り取る (trimする) という意味から名付けられたのだと思います。
macOSのTRIM機能
SSDには是非とも欲しいTRIM機能ですが、macOSでは、Macに最初から搭載されているSSDにだけ機能します。なので、本物のMacであっても、ユーザが蓋を開けて交換した市販のSSDでは、TRIM機能が効きません。残念な状況ですが、あらゆるSSDでの動作を保証できないと考えて、そうしているのかと思われます。
Apple非純正のSSDに交換した場合は、macOSに標準で搭載されているtrimforceコマンドを使うと良いです。ターミナルから、
sudo trimforce enable
と打ち込んで、パスワードなどを入力すると、しばらく処理が行われた後、自動的に再起動して、搭載された全てのSSDでTRIMが機能するようになります。
実際はちょっと違います
というような説明がネット上にはあります。が、実際にはそんなに単純ではないです。実際には、
- Apple非純正のSSDでも何もせずにTRIMが機能することがあります。
- 一方でtrimforceコマンドでTRIMが有効にならないSSDもあります。
- そんな場合はIOAHCIBlockStorage.kextにパッチを当てれば良いです。
という状況です。
HackintoshでTRIMを有効化
HackintoshではApple純正SSDなどはまず使いませんので、そのままではTRIMが機能しない可能性が高いです。でも、非純正SSDでもTRIMが機能することもあります。ということでまずは状況を確認しましょう。それで機能していなければ対策をしましょう。
Step 1. TRIMが有効になっているかどうか確認する
リンゴマーク–>このMacについて–>システムレポート…–>ハードウェアから、SATA/SATA ExpressやNVMExpressの項目を見て、接続されているSSDを選択します。この中に、TRIMサポート:という項目があります。これが「はい」ならTRIMが機能しています。手元のマシンでは、M.2ソケット接続のSamsungのNVMe SSDは、バニラなmacOSでTRIMサポートされていました。TRIMサポートが「いいえ」なら次のステップに進みます。
Step 2. trimforceコマンドを試す
以前のmacOSではtrimforceがよく機能したものの、最近のmacOSではあまり当てにならない気がしています。でも機能することもあります。OS標準機能なので、一度は試しておきましょう。保証はしないよという警告が出ますが、実行してしまいます。再起動した後で、また「システム情報」でTRIMサポートを確認します。手元のSATA接続SanDiskの2.5インチSSDは、trimforceコマンドでもTRIM有効化できませんでした。
でも、AliExpressで買ったmSATA接続SSDはTRIM有効化できました。
Step 3. IOAHCIBlockStorage.kextにパッチを当てる
これは確実です。本物のMacを対象としたネット上の情報でも、パッチを当てる方法が紹介されています。でも、結構面倒ですし、SIPを無効にする必要がありますし、OSがバニラな状態ではなくなってしまいます。OSのアップデートごとに、同じパッチ当てをする必要があるでしょう。でもCloverを使ったHackintoshなら、config.plistで設定するだけで、起動時に動的にパッチを当てます。OS本体は手つかずのままパッチを当ててくれます。素晴らしいです。config.plistのKextsToPatchにセクションに以下のように書き込みます。
<key>KextsToPatch</key> <array> <dict> <key>Name</key> <string>IOAHCIBlockStorage</string> <key>Find</key> <data> AEFQUExFIFNTRAA= </data> <key>Replace</key> <data> AAAAAAAAAAAAAAA= </data> <key>Comment</key> <string>TRIM Enabler</string> </dict> </array>
このパッチでは、Base64表記でAEFQUExFIFNTRAA=というデータを、AAAAというAの羅列データに置き換えています。16進数で表すと
004150504c452053534400
というデータを
0000000000000000000000
で置き換えていることになります(Base64ではAが数値の0です)。元のデータは、最初と最後の0x00を除くと、真ん中はASCIIコードになっていて、APPLE SSDという文字列です。
004150504c452053534400 A P P L E S S D
おそらくApple社のSSDに限定している場所を、0で消しているようです。この結果、手元のSanDisk 2.5インチSSDでもTRIMが有効になりました。